2024.12.19

なぜメルセデス・ベンツのガソリンは「ハイオク」なのか?

イベント・雑学

イベント アンケート企画 カルチャー 雑学

世界的な政情不安と円安のダブルパンチで、一向に価格が安定しないガソリン。少しでも節約したくても、メルセデス・ベンツの指定油種は価格の高い「ハイオク」です。ついつい、レギュラーガソリンに手が伸びそうになりますが、指定外の燃料を使用しても問題はないのでしょうか? そもそもレギュラーとハイオクの違いはなんなのか。知っているようでよくわからないガソリンを解説します。

 

 

──────────────────

人生で一度だけ、ガス欠になったことがあるライターの渡瀬です。

 

その時はたまたま50mほど先にガソリンスタンドがあったので、事なきを得ました。以来、エンプティランプがつく前に必ず給油するようにしています。

 

一般的に日本で販売されているガソリンには、2つの種類があります。「レギュラー」または単に「ガソリン」と呼ばれるものと、「ハイオク」「プレミアム」と呼ばれるものです。このページでは便宜的に「レギュラー」「ハイオク」と呼びたいと思います。

 

両者の違いは「オクタン価」によって決定します。ガソリンは自然発火しやすく、エンジン内で起こるとノッキング(異常燃焼)を起こし、エンジンに不自然な動きや振動を与えるため、添加物を加えて異常燃焼を起きにくくしています。

 

オクタン価とはこの異常燃焼の起きにくさを示す数値です。ハイオクとは、オクタン価が高い(ハイ・オクタン価)という意味になります。スポーツカーや高排気量車は混合気の圧縮比が高いため、異常燃焼が起きやすくなるため、ハイオク指定されています。

▲日本ではハイオクのノズルが黄色、レギュラーが赤、軽油が緑と法令で定められている

メルセデス・ベンツなどヨーロッパのクルマは、基本的にスポーツカーや高排気量車でなくともハイオク指定されています。これは日本とヨーロッパでガソリンの規格が違うことが理由です。

 

日本ではレギュラーとハイオクのオクタン価は日本産業企画(JIS)で規定されています。ハイオクはオクタン価がRON 96以上、レギュラーはRON 89以上となっています。一方で、海外では国や地域によってオクタン価が異なります。下は主な国のオクタン価です。

▲各国の油種の名称は代表的な例。RONとはリサーチ・オクタン価(Research Octane Number)のこと。アメリカのみ、AKI(Anti-Knock Index)という単位が一般的に使用されている

メルセデス・ベンツなどの欧州車は、ほとんどの車種を現地における低いオクタン価(ドイツでは中央)に合わせた仕様となっています。しかし日本のオクタン価はもともと規定値が低いため、ハイオクが該当することになるわけです。

▲欧米ではノズルなどにオクタン価の数値が記載されている場合が多い(PIXTA)

一方で、日本の大手の石油元売り会社のガソリンスタンドでは、実際にはレギュラーがRON 90、ハイオクがRON 100程度で販売されているといわれています。そのため、欧州車に乗っている人の中にはハイオクとレギュラーを半分ずつ入れて、ヨーロッパの低いオクタン価(RON 95)に調節し、節約するという人もいました。

 

しかし、2020年に発覚した石油元売り5社によるハイオクガソリン不正事件により、この前提は崩れてしまいました。ハイオクガソリンの内容にメーカー毎の違いはなく、同時にオクタン価がRON 100以上を明言する石油元売りもなくなりました。また、実際にハイオクとレギュラーを同じ量だけ給油すると、含有されている添加剤は混ざりにくいこともわかっています。

 

たとえハイオク仕様のクルマにレギュラーガソリンを入れても、基本的にエンジンが壊れることはありません。ノックセンサーという異常燃焼を防ぐ装置が、最近の車両にはすべて装着されているからです。しかし、規定値を下回るオクタン価の燃料を使用した場合はパワーが落ちて、燃料が割安になった分では取り返せないほど燃費が悪化します。

 

日本でメルセデス・ベンツに乗る場合、エンジンへの影響や燃費など、あらゆる面でハイオク以外の燃料の選択肢はありません。故障などのリスクもゼロではないことを考えると、メーカーから指定されているハイオクを使用するのが賢いといえるでしょう。

 

(渡瀬基樹)

渡瀬基樹(わたせ・もとき)
ゴルフ雑誌、自動車雑誌などを経て、現在はフリーの編集者・ライター。『Octane日本版』など自動車関係の編集のほか、鉄道・ライフスタイル系の記事制作・編集に携わるほか、クラシックカーやスーパーカーのツーリング・ツアーイベントのルート設計やツアーディレクターも務める。著作に『迷宮駅を探索する』(星海社新書)。

関連記事
その他の記事